ドイツの歴史教科書の文化史的な転回が歴史家カール・ランプレヒトの影響下ですでに1900年前後に本格化していたことを明らかにするため、歴史教科書に掲載された挿絵の調査に従事した。調査を進めるために初年度は主にスキャナー、撮影機器、OA機器の拡充に努めた。本研究の遂行のためにはドイツ連邦共和国ブラウンシュヴァイク市にあるゲオルク・エッカート国際教科書研究所附属図書館における調査が不可欠である。わたしは2006年2月から3月にかけて5週間科学研究費補助金によって、また2005年7月から8月にかけて1ヶ月間先方の負担によって歴史教材の調査を進めることができ、図書館所蔵教材の3割程度の考察を終えた。 全体の教材の分量から考えるとまだまだ予備調査の段階だが、すでに予備調査の域を越える成果があがりつつある。ランプレヒトが文化史の必要性を提唱する1890年代以前の歴史教材にもすでに少なからぬ挿絵が使われていたが、それらは偉人の肖像や著名な事件を描く図像であって、暗記事項を助けるための図像であった。いっぽう、1890年代を境として特定の歴史的固有名詞と結びつかない文化史的図像が増える。それは住居や居住形態から風俗にまで及んだ。もちろんテクストにも変化が出ている。暗記よりも理解に重点がおかれたのである。今後は文化史的図像が急激に増加した影響の考察がかぎとなろう。 なお、本研究は海外でも高い注目を集めている。すでにライプツィヒ大学のカール・ランプレヒ協会から本研究にかんする学術講演の依頼を受けている。それは2006年中におこなわれるであろう。今後は研究成果報告書の作成だけでなく、海外雑誌への投稿も視野に入れて研究を進める予定である。
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