近世フランスの地方長官補佐についての研究のうち、本年度は、その実際の活動について検討した。これは、数少ない従来の研究が主として法的・制度的側面からのものであったため、不明な点が多い領域である。 メーヌ・エ・ロワール、アンドル・エ・ロワールの二つの県文書館史料を調査した結果、アンジェ管区の地方長官補佐の活動はきわめて広範囲に及び、1)地方長官への情報提供、2)地方長官の命令の都市政府・村総代・司祭などへの伝達、3)地方長官の命令の執行、の3つの領域に区分できることがわかった。 3)についてさらにその内訳を見ると、国王民兵の徴集のための集会の主宰などの軍事行政、租税台帳の検査、都市財政の会計検査など都市・農村共同体に対する財政的後見、同業組合の規制など経済に関する地方長官の命令の執行、風紀の取り締まり、疫病対策などである。 こうした活動を行う際の地方長官補佐の権限と地位は、決して高いものではなかった。すべて、地方長官の命令の下で行われ、自らに決定権はなかったからである。しかしながら、地方長官補佐が果たした実質的な役割は、外見より大きいと評価すべきであろう。現地の事情に疎い国務会議や地方長官は、多くの政策決定を在地の地方長官補佐の提供する情報に基づいて行った。また、国王直轄官僚の数が限られていて官職保有官僚や都市役人に任せられていた仕事が数多くあったことを考えるならば、地方長官補佐によるかれらへの督促、監視は大きな意味を持っていたからである。
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