本年度は半年という限られた研究期間のなかで、大きくはコンピュータなど情報関係の環境整備、書籍購入、国内研究会への参加、そしてフランスへの史料収集のための出張というように、きわめて効率的かつ有効に科研費を使うことができた。以上によって、研究室の基本的な環境を整え、来年度以降の研究に備えた書籍や史料の収集を進められた。 また最終的には、本研究が開始される以前から取り組んでいた業績を数点、刊行することができた。本研究は、フランス植民地帝国を通してヨーロッパ統合を考えることで、20世紀フランス史を再考することを目的とするが、本年度の実績のそれぞれは、大きくはこの点に収斂していくものである。『帝国への新たな視座』の分担部分は、戦間期のフランス植民地帝国のあり方を、移動する人びとを通して論じたものである。人の移動はヨーロッパ統合が進められる過程での大きな論点ともなっていく。『アソシアシオンで読み解くフランス史』の担当部分では19世紀の地理学会を論じたが、この学会が単に植民地に関する先駆的な圧力団体だったとする見方を離れてみると、この学会に後のヨーロッパ統合の先駆けのような視点を読みとることもできた。残りの図書2点はいずれも大学生の教科書として編まれたものだが、『ヨーロッパ学入門』では非ヨーロッパ圏を視野にコロンブスからヨーロッパ統合までの歴史を、また『近代フランスの歴史』では5世紀にわたるフランス帝国史の概略を、鳥瞰的に描いた。とくに『ヨーロッパ学入門』には、植民地帝国の歴史を通してフランス、あるいはヨーロッパを相対化するという意味で、本研究の下地となる要素が大きく取り入れられている。以上の実績を通しても、本研究の視点の重要性が再確認されたと思う。
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