本年度は書籍の購入、フランスへの史料収集のための出張、ドイツ現代史学会での報告が、おもな支出であった。フランスへの出張では、昨年は時間がなくて見られなかった史料を手にすることができた。なかでも国立図書館が所蔵する1950年代の雑誌類は、研究を進める上でぜひ目を通しておく必要があるものであり、充実した成果が得られた。また学会に関しては、「ドイツ現代史」という枠組み自体の脱構築を試みたいという企画側の目的が、従来の「フランス史」という枠組みの問い直しを進めてきた私の立場と重なるものがあり、共鳴するところが多かった。しかも「フランス植民地帝国からみたヨーロッパ統合-ユーラフリカ概念を中心に」というタイトルで、本科研費による研究テーマそのものについて報告することができ、その意味でもたいへんに意義深かった。 実績については、主要論文として『歴史評論』に「歴史を書くのはだれか」が掲載された。ヨーロッパ統合の問題からは若干離れるが、20世紀フランス史を植民地問題を通して再考するという、大きな問題意識は共通するものである。そのほか短文が二箇所に掲載された。一つは2005年秋に東京外国語大学で行なわれた国際シンポジウム「ジブラルタル海峡をはさむ他者認識-イベリアとマグレブの相克」に対するコメント、もう一つは『歴史と地理-世界史の研究』の研究フォーラムにまとめた「ヨーロッパのなかの「非ヨーロッパ」-フランス植民地帝国を通して考える」である。いずれも本科研費による研究に密接にかかわる内容であるが、とりわけ国際シンポジウムでのコメントは、ユーラフリカという言葉をめぐって、1930年代の異なる側面について言及したもので、この点は来年度以降に深めるべき論点となるはずである。またマルク・ブロック『奇妙な敗北-1940年の証言』の翻訳を上梓したことを記しておきたい。
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