本研究は、植民地支配の歴史を通してフランス史を読み替えるという、従来、平野が携わってきた研究に、さらにヨーロッパという軸を加えて、20世紀フランス史を再考するのが主な目的であった。本研究を通して得られた知見のなかで、最も直接的に従来の歴史叙述に修正を加えられる点としては、植民地帝国の崩壊とヨーロッパ統合の進展の関係が指摘される。これまでは、フランスは植民地帝国を維持できなくなったので、ヨーロッパ統合に軸足を移したとされてきたが、本研究の結果、フランスがヨーロッパ統合を推進したのは植民地帝国に替えてのことではなく、支配領域の維持が前提であったことが明らかになった。当初の仮説はほぼ立証された。ヨーロッパ統合という、すぐれて「ヨーロッパ」の事柄にも、歴史的には非ヨーロッパ圏が関与していたわけであり、フランスのみならず、ヨーロッパの通史を考える際にも、非ヨーロッパ圏を等閑視することができない一例を示せたと思う。 このことは、さらに新たな問題を提起している。フランスは、旧植民地の支持を基盤として国際社会での発言権を高めようとしたものだが、とりわけアフリカ諸国はこうしたフランスの期待に応える言動をしている。つまり旧植民地の側からも、旧宗主国との結びつきを求めたという側面である。それには経済支援が必要だという事情もあるが、旧仏領アフリカの親フランス的な傾向は、今日にも続いている。植民地化の歴史は、支配、抵抗、独立、と図式化して語られがちだが、そうではない支配の歴史があったことを、仏領アフリカは物語っている。ヨーロッパ統合を通して考えた結果、20世紀フランス史の再考の可能性は、脱植民地化の問題など、さらに比較帝国史への道を開いたといえる。こうした新たな問題に、改めて取り組んでいきたい。
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