本研究は、古墳時代中期の軍事組織を解明する前提として、鉄製甲冑の生産と供給に関する議論を深化させることを大きな目的としている。具体的には、横矧板鋲留短甲の細部データを検討することにより、同一の基本設計をもつ同工品(同一の工人または工人集団の製品)を抽出することを第一の目的とし、また、そうした作業をつうじて、短甲の生産と供給にアプローチするための基礎的な方法や視点を獲得することを第二の目的としている。 上記の目的を達成するためには、これまでにない詳細な計測データや画像データの収集を行う必要があり、本年度は、前胴を6段構成とする特徴的な横矧板鋲留短甲を中心に、以下の資料について調査(計14日間)を実施した。 1.熊本県江田船山古墳出土短甲(東京国立博物館) 2.千葉県金塚古墳・同花野井大塚古墳出土短甲(我孫子市教育委員会、柏市教育委員会) 3.富山県イヨダノヤマ3号墳出土短甲(氷見市教育委員会) 4.福岡県かって塚古墳・同長迫古墳出土短甲ほか(稲築町教育委員会、北九州市立いのちのたび博物館ほか) 5.千葉県東間部多1号墳出土短甲(市原市教育委員会) 6.兵庫県宮山古墳出土短甲ほか(姫路市埋蔵文化財センターほか) 7.兵庫県安黒御山5号墳・同法花堂2号墳出土短甲(宍粟市歴史博物館、香寺町教育委員会) 調査の結果、前胴を6段構成とする7例の横矧板鋲留短甲は、基本的な鉄板の構成のみならず、鋲留位置(鋲数)や覆輪手法、蝶番金具の形状などの点で多くの共通要素をもち、同工品としてとらえうる可能性が高いことが明らかとなった。次年度は、通有の段構成をもつ横矧板鋲留短甲を中心に、さらに調査と研究を進めていく予定である。
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