研究概要 |
本年度は、成果公開に向けて共通基礎資料の取りまとめ、政治史、環境史、地理学、考古学など各視点での分析・検討を総合して、漢代北方境界領域に対する認識を統括した。3月に国際研究集会を開催して、研究の成果を公開した。 まず、議論の共通の基礎となった当該地域の地理環境と城郭を提示した。これに基づいて、各視点からの検討成果を発表した。ここでは、大きく3つのテーマで漢代の北方境界領域の地域動態を描出した。一つは地域圏、一つは地域社会、そして漢代北方境界領域の相対化である。まず、開発の実態や交通路の様相、城郭の分布や墓葬の形態を対象として、北方境界領域の地域圏の様相を明らかにした。そして、空間性と人・集団という視点から県城を中心にした社会を復元し、地域社会の様相を評価した。そして、自然地理環境と生業適応の関係や、漢代以前の地域間関係などを検討することによって、漢代の北方境界領域を相対的に評価した。地域圏と地域社会という二つの視点で漢代の北方境界領域の様相を整理し、両者を基に描き出せる地域動態を比較の視座から評価した。 研究成果の一つは、地理環境と城郭という共通資料を設定し、分析の対象を共有化することによって,各視点の比較や検討を容易にし,総合的な議論が進んだことである。もう一つは、地域圏を対象とするマクロな視点と地域社会を対象とするミクロな視点を対照して、北方境界領域の地域動態を重層的に描出したことである。本研究は、漢代北方境界領域の地域動態を明らかにするだけでなく、多様な分析手法や検討視点を複合した、地域動態研究の一方法論を提示することができたと考えている。
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