この研究の目的は、三浦半島の相模湾側にくる乗越瓦窯、東京湾側になる石井瓦窯、法塔瓦窯、公郷瓦窯が現実に存在したのかを確認することにある。神奈川県域の中央を流れる相模川の右岸部には三浦半島を擁して、宗元寺、下寺尾廃寺、鎌倉廃寺、相模国分寺、山岳寺院の鐘ケ嶽廃寺が存在している。このうちの相模国分尼寺や鐘ケ嶽廃寺での南多摩窯跡や瓦尾根瓦窯の製品を除けば、多くが三浦半島に存在したと推定している未確認の瓦窯で生産されたものである。相模国分僧寺2号溝出土の瓦片38点、下寺尾廃寺出土の瓦片32点、鎌倉廃寺に関連する千葉地東遺跡出土の瓦片36点、鐘ケ嶽廃寺出土の瓦片12点、乗越瓦窯跡と推定するところでの採集瓦片20点による計138点を肉眼観察で石井瓦窯系、乗越瓦窯系、公郷瓦窯系、瓦尾根瓦窯系、南多摩窯系、下寺尾型、法塔瓦窯系、それに瓦窯の判別がつかない不明品とに分け、分類された資料をもとにして蛍光X線分析にかけ、肉眼観察と蛍光X線分析の結果を比較することで瓦窯の有無を探ることにした。肉眼観察で各瓦窯別に分類された資料は、まず対峙する位置関係にある瓦尾根瓦窯系と公郷瓦窯系資料によるフォッサマグマの分布領域を押さえたうえで、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)の13元素を分析し、各元素の蛍光X線強度(cps)を表示して主成分の分布領域を示すことにした。 蛍光X線分析の結果は、肉眼観察による分類とも一致し、下寺尾型製品を生産した瓦窯の存在も予測でき、さらに産地不明品とした格子叩きの平瓦を生産した瓦窯も三浦半島にあることが予見できたことは大きな成果といえる。この研究成果が出たのちに、実際に乗越瓦窯が発見されて発掘調査が行われている。
|