本年度は、当初の計画通りに、(1)韓国で行われている様々な場所マーケティングの事例を地域資源(場所資産)の種類や従来の地域性との関連性を基準にデータベース化するとともに、(2)全羅南道咸平郡の「チョウまつり」を事例に、新たな場所性の形成過程に関する深層インタビューを行った。さらに、場所マーケティングの手段と地域住民の日常生活および場所認識に及ぼした影響に関する聞き取り調査もあわせて行った。なお、全羅南道咸平郡における場所マーケティングの地域経済に及ぼした影響や場所マーケティングに伴う公共事業と地方財政との関係に関する資料収集を行い、現在その分析を急いでいる状況である。 調査の結果、全羅南道咸平郡の「チョウまつり」の成功要因として次のようなことをあげることができた。第一に、韓国に農村部自治体の空間スケールである。郡単位自治体は統一した地域イメージで場所マーケティングが可能な空間スケールであった。第二に、場所マーケティングの実施体制として、咸平郡のチョウまつりでは、企画能力の乏しかった行政組織をコンサル化することによって核となる主体を確保することができた。第三に、韓国農村部は伝統との断絶を経験しており、それはまちづくりにおいて短所でもあるが、新しいものを受け入れやすいという点でベンチャー精神を刺激し、場所マーケティングの中身に多様性を生みやすいという長所でもあった。第四に、韓国農村部では専業農家率が高く潜在的な失業状態の労働力が豊富であるため、場所マーケティングにおいても民間部門の動員が容易であった。 また本年度は、上記の全羅南道咸平郡の調査以外にも、慶尚北道清道郡においても資料収集を行った。さらに、日本との比較のため、コウノトリの野生復帰事業で場所マーケティングに成果を上げている兵庫県豊岡市の調査を行った。
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