本年度は、当初の計画通りに、(1)前年度に行った全羅南道咸平郡の「チョウまつり」および兵庫県豊岡市のコウノトリの野生復帰事業と場所マーケティングに関する現地調査を続けるとともに、(2)慶尚北道清道郡における「闘牛まつり」による場所マーケティングに関する現地調査を行った。重点的な調査項目は、場所マーケティングによる新たな場所性の形成過程、場所マーケティングの主な手段、地域住民の日常生活および場所認識に及ぼした影響の3項目であった。さらに、各事例地域において、地域経済に及ぼした影響や場所マーケティングに伴う公共事業と地方財政との関係に関する資料収集を行い、その分析を行っている。調査の結果、慶尚北道清道郡の「闘牛まつり」の成功要因として次のようなことをあげることができた。第一に、清道郡の地理的立地条件の良さである。清道郡は韓国の中心軸である京釜線沿いに位置し、中心としてある大邱からはもちろんソウル、釜山からのアクセスも良好である。そのため、場所マーケティングの効果が直接的に観光客数の増加につながり、試行錯誤を最小限に抑えることができた。第二に、場所マーケティングの実施体制として、清道郡の「闘牛まつり」でも、企画能力の乏しかった行政組織をコンサル化することによって核となる主体を確保していた。この点は、咸平郡の「チョウまつり」と共通しており、農村部自治体が場所マーケティング戦略を駆使する際に役所職員のやる気とその体制が必要条件であることを意味するものと考えられる。第三に、咸平郡の「チョウまつり」とは違い、清道郡には民俗行事としての闘牛が維持されてきて、近年の民族伝統ブームのなかで全国的な行事に拡大したものであった。つまり、競争力をある場所資源をマーケットのニーズに合わせて、再構成した事例といえる。しかし、清道郡の「闘牛まつり」では可視的な成果にあせたあまり、主体的能力を超える規模拡大を図り、その中核施設として闘牛常設競技場を建設したが、その運営に苦しまれている。さらに、の第四に、韓国農村部では専業農家率が高く潜在的な失業状態の労働力が豊富であるため、場所マ「闘牛」から連想させる地域イメージの創出に成功したとは言えず、課題も少なくない。
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