研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、現代のバリで「慣習」が(再)構築されるプロセスとして、バりの地方紙におけるヒンドゥー教徒のバリ人の慣習や儀礼をめぐる問題の扱いを記述・分析することである。カルチュラル・スタディーズは、能動的なオーディエンスという新たな視点からのメディアの受容研究として現在流行っているが、本研究ではオーディエンスの研究は視野に入れなかった。発信者についての情報をそもそも欠いているということが問題だからである。次に、現地調査においては、可能な限り研究期間中に定期購読し、収集した。また、地方紙のほとんどについては本社(編集部)を訪れ、情報収集を試みた。その結果、次のような知見を得た。バリのメディア市場は、中央のメディア・コングロマリットによるバリ市場への参入にもかかわらず、地方資本バリ・ポストによる寡占状態にある。そこで、近年の小資本による新たなメディアは淘汰されているようであるが、最終年度の調査の時点にもタブロイドが新たに発行されていた。注目すべきは、これまでのバリにはほとんど見られなかった政治色の強いタブロイドが登場したことである。ただし、最近になってこのような政治的なタブロイドが出てきたのは、バリの地方プレス全体の傾向が政治志向のプレスへと回帰したというのではなく、地方政府首長(県知事)選挙が関連していると思われる。そして、こうした政党宣伝のようなタブロイドや一般紙ですら、日常的に「慣習」や「文化」を危機に瀕したものとして描いていることが重要である。なお、本研究で使用しなかった計量的な方法は、経験的基盤を欠き恣意的に見える言説分析の方法を補うために必要だが、その地域での他の情報との関連を見る全体論的な研究がまず為されるべきと私は考え、本研究で試みたのは、バリという一地方におけるプレスの背景知識をバリ社会のそのほかの条件と関連させて考えることである。
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The Micrology of Indonesian Local Societies(SUGISHIMA, Takashi and Kiyoshi NAKAMURA(eds.))(NTT Publishing Inc)
ページ: 285-315