本研究では、釣り漁業における漁撈技術の移動(伝播)とそれにともう民俗事象の伝播のありようについて研究を進め、以下のことを明らかにすることができた。 1.漁撈技術の伝わり方とそれが普及していく過程について、それをもたらした要因が勧業施策にもとづきながらも、導入・定着するための手がかりとして、各地で慣行漁業や漁村調査を実施した実態が見られた。 2.釣漁具の製造業者による実用新案申請資料などの検討から、製造業者は漁獲対象魚の生態を漁師の視点でとりいれながら製造を行い、かつ、漁師同士の交流による普及方法(販売網)を確立していた。 3.水産研究機関の研究者により1950年代に漁村調査が実施され、そこには民俗学研究者の調査協力があったこと、その調査のための「採集手帳」を作成した。漁村調査では民俗学的手法も加味しながら、漁具・漁法の普及の過程やそれによる効果なども調査対象とされていた。 4.漁民の信仰の対象としての山形県鶴岡市の善寶寺信仰が、漁撈技術の移動とともにイカ釣の出稼漁民によって佐渡島に伝播し、漁撈習俗として普及した可能性のあることを確認した。これは、技術移動とともに漁撈民俗が形成されるという新たな視点を提供するものでもある。
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