報告者はこれまで華僑社会における伝統文化特に祭祀・芸能・音楽に焦点を当てて、華僑の文化・社会のダイナミズムを研究してきた。しかし、華僑社会における伝統文化、特に祭祀・芸能の変容と再編の動きは日本やアメリカだけではなく、北米など世界各地で広く見られる。本研究は、従来研究成果を踏まえた上で、日本の華僑社会、アメリカのチャイナタウン及び新しい中国系コミュニティの現地調査を継続しながら、新たにカナダやチェコ、南アフリカなどの海外華人社会について調査を実施し考察した。その内容は主に以下のようなものである。 (1)日本やサンフランシスコ華僑社会との比較研究の視点から、カナダ・バンクーバーのチャイニーズコミュニティ及びチャイナタウンにおける各種の行事についての調査。現在バンクーバーに移住する華人の人口が多く、当該地域では最大なエスニックグループとなっている。その文化活動は上位社会に非常に大きな影響を与えている。(2)新移民の調査として、現在多くの新移民に流れていた東ヨーロッパにあるチェコ、そして日本の香川県における中国人新移民の実態に関するもの。同じ新移民でも、異なる国ではそれぞれの移民コミュニティを形成し、上位社会に与える影響も大きい。さらに、最近、日本に興った中国民族楽器二胡のブームについて調査を行った。移住先の日本人の社会に広がっている中国新移民による民族楽器二胡の伝承は、越境する文化の伝播と変容の1つモテルとして捉えられるからである。(3)これまで研究してきた長崎の華僑社会と地域文化と対照的に、香川にある琴平町の地域文化に対する調査及び大阪アメリカ村に関する文献調査を行い、異文化と伝統文化が街の魅力が構成する要因であることが明らかになった。 これらの研究調査を通して、変動する中国社会により海外華僑華人社会の変化、中国伝統文化の変容と受容、及び移住国地域に与えた影響などについて比較研究の視点から考察を試みた。
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