本年度も過去二カ年とおなじく、マレーシアにおけるイスラームと市民的価値との「整合」に関しての資料収集を中心に研究を進めた。とくに本年度は、ふたつの価値の相克が強く現れる事例として「イスラームの多妻婚」を取り上げ、マレーシアにおける多妻婚の制度化過程の分析を通して、ふたつの価値の「整合」のあり方についてあきらかにするとともに、その成果を学会発表ならびに研究論文としてとりまとめた。 具体的には、マラヤ大学、マレーシア国民大学、マレーシア国立図書館において、マレーシア各州における多妻婚関連条例を、その経年的変遷過程を含めて精査する一方、多妻婚にかんするマレーシア各界、各層の言説を収集した。資料の分析から、イスラーム的価値を絶対視する者にとっても、あるいは市民的価値を絶対視する者にとっても、自らの価値の実現にさいしてはつねに他方の価値によって相対化されざるを得ないという、マレーシアの現実があきらかになった。より一般論として、現代社会におけるイスラームの制度化は、イスラーム的価値と市民的価値のそれぞれが相対化されながら現実化されるという複雑な過程のなかで理解されなければならないことが指摘された。 さらにマレーシア調査に付随してタイ・バンコク市内の数カ所のモスクでイスラームの実態について関係者からの聞き取り調査をおこなった。タイにおける資料は今後さらなる収集をはかりマレーシアのそれとの比較研究に発展させる予定である。
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