研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、まず米国における技術文化スローガン「safety-first」の構築過程を解析し、そこに内在する精神性と、その輸入概念としての日本語の「安全第一」活動との相違を明示することにあり、具体的には自動車工業都市デトロイトの成立事情とプロテスタント教会及びこれを取り巻く信仰の変質の問題を論じる。考察の軸としたのは信者である事業経営者と牧師との間に生じた、信仰をめぐる葛藤とその局面である。具体的な考察対象としたのは、フォード社における信仰実践に与した人物として、S.S.マーキュス及び着任間もない若きラインホルド・ニーバーである。そこから明らかとなったのは信者である経営者の意図に沿った道徳へと信仰が左右され、さらに従業員の私的生活をも包摂する「奉仕」を容認する「経営宗教」による独自の経営倫理意識の構築と、これによる「フォーディズム」という生産管理の実態であった。そこには時代をめぐる二つの社会的要因が作用している。第一に、労働を取り巻くカトリックを含む移民と禁酒運動による米国市民化という教会外部からの要因である。第二に、教会と信徒教育を取り巻く内的要因であり、これは聖書に依拠したテキスト化に動機付けられた教育の変質を示唆する。以上より、プロテスタンティズムに内在する資本主義の精神性という仮説に依拠せずに労働をめぐる「奉仕」観の変質を捉え、そこから生じた「safety」という理念へと肉迫することが可能となる。「フォーディズム」成立の時代のもとでは、聖書における主体的な「safety」の構えは失われ、空洞化されたスローガン「safety-first」と化したといえよう。
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