本研究の目的は、南米ボリビア東部低地の先住諸民族を対象に、スペイン統治時代に同地域にもたらされたキリスト教の宗教的実践に関連する文書文化の形成・変容・現状を、文献調査とフィールド調査の併用により明らかにすることである。 研究代表者は平成17年7月末から8月末にかけてボリビアに渡航し、ラパスのイエズス会ボリビア管区文書館とサン・イグナシオ・デ・モホスの教区付属文書館で文献調査を実施した。植民地時代以降、宣教師と先住民が作成した宗教文書(教理問答書、秘蹟授与の手引き、説教集、祈祷集、聖歌集など)を体系的に収集し、帰国後は、それらの文書を整理・分類するとともに、以前に収集した文書と比較・照合し、当該地域に伝わる宗教文書の全体的特徴の把握に努めた。今回の調査で収集できた文書は、比較的近年に作成されたものが大半であり、18・19世紀の文書はごくわずかであった。しかし、聖歌・楽譜を多数集めることができたのは、大きな収穫であった。 ボリビアでは、文書館での文献調査のほか、サン・イグナシオ・デ・モホスとサン・ロレンソ・デ・モホスでフィールド調査も実施した。文字を読み書きできる先住民の説教師、楽士、歌手、聖具室係にインタヴィーを行い、職歴や文書の管理・使用について尋ねるとともに、祭礼や信心業に付きそい、実際に文書が使われるありさまを観察した。 本年度はまた、文献調査で収集した史料に基づき、ミッション体制下、および世俗統治下でのキリスト教的実践の形成と変容、言語政策とその効果、識字教育の特色などを解明する作業も行った。18世紀後半にミッションが世俗化されたとき、従来の言語政策が大きく変化し、スペイン語教育が新たに開始された。そのスペイン語教育が、先住民の社会組織や文書文化に大きな影響を与えたことが、史料の分析を通じて確認できた。
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