研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、南米ボリビア東部低地のモホス地方を対象に、カトリックの宗教的実践に関連した文書文化の形成・変容・現状を、文献調査とフィールド調査の併用により明らかにすることである。本研究により得られた知見は、以下の3点にまとめられる。1.文書文化の安定性と持続性17世紀末以降のイエズス会のミッション建設活動によりモホス地方に成立した文書文化は、20世紀初めまでその基本的特徴を維持しており、現在でも部分的に存続している。文書を扱う能力のある先住民は、聖具室係・楽士・歌手・教理教師など典礼執行を担う職能者である。扱われる文書は公教要理・秘蹟授与の手引・説教・祈祷・聖歌などで、記憶の補助と知識の継承に使われる。文書文化のこの安定性と持続性は、文書を伴う活動が典礼という専門的領域に特化していることに起因すると思われる。2.文書の管理形態の変化文書の使用形態がほとんど変化しない反面、その管理形態は1767年のイエズス会追放後、著しく変化した。イエズス会時代に聖堂と学院に一括して保管されていた文書は、修道会追放後、散逸し消滅した。その一方、先住民は個人的なイニシャティブで必要な文書を複写し、複製を自分の家に保管し、次世代へ継承するようになった。文書の判型は小型化し、内容は抜粋の集積と化した。また、文書とその所有者の関係が深まり、署名が登場し、個性的なデザインや挿絵も見られるようになった。3.スペイン語教育の影響1780年代から本格的に開始されたスペイン語教育は、先住民に植民地の行政・司法機構に通暁し、それに働きかける能ガをもたらした。先住民は文書を介して外部世界の情報を入手し、行政官や司祭の不正や横暴を中央政府に直訴し、書簡をやりとりして互いに連絡を取り合うようになった。その結果、宗教的権威に依存しない新たな指導者が台頭し、民族の自意識が高まり、植民地支配への抵抗運動が活発化した。
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国立民族学博物館研究報告 31・4
ページ: 443-477
Bulletin of the National Muse urn of Ethnology vol. 31, no. 4