今年度は、昨年度発掘・資料採取できた2mにも達する東京都港区の「芝雑魚場跡遺跡」の近世貝層を処理し、学会発表(11月動物考古研究会)および論文発表(港区立港郷土博物館紀要)できた。この発表によって、近世期にバカガイ(あおやぎ)が漁村で大量に剥かれ、貝殻が海浜に投棄されていたことが、初めて明らかに出来た。千葉市の旧漁村の実地調査を行い、僅かながら貝層の存在していたことを確認し、そのサンプルを採取した。この旧漁村は、近世から漁村でありながら、芝雑魚場跡とは異なり、厚い貝層を形成していなかったのは「貝灰業者」によって貝殻が持ち去られた結果ではないかと考えられた。また、現在も貝剥きの行われている千葉県木更津市の漁港等の巡検も行った。一方、近世の貝剥きと比較し、「貝剥き」の起源を探ることにも重点を置き、縄文時代の貝塚の研究を進めた。 その他には、東京湾との比較で三河湾や周防灘・有明海の現地調査も行った。三河湾では、縄文時代から近世までハマグリのみを利用していた遺跡で調査を行った。その結果、近世期には縄文時代より明らかにサイズが小形化していること、これらのハマグリは茄でられた可能性の高いこと、東京湾に多かったバカガイは全く含まれていなかったこと、現在でもこの地方ではアサリを生で剥くことはあり、その用具は「ムキガイ」と呼ばれていること等が明らかとなった。周防灘では、現在のバカガイ漁残滓を採取し、剥き身に関する聞き取りを行った。有明海では、生で剥くことはほとんどなく、茄でて利用されていること、東京湾とは異なる種で構成されている縄文時代の貝層を実見できたこと、現在の漁港での貝殻投棄状況を確認したこと等が成果である。
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