研究課題
基盤研究(C)
貝剥きとは、二枚貝類を生きたまま食用に軟体(=身)を取り出す行為であり、生ガキではよく知られており、世界の多くの民族・時代で、貝剥きにより利用されている。しかし、他の種での貝剥きは、一部の地域で特徴的に利用されるホタテガイ類を除き、ほとんど知られていない。しかし、東京湾においては、干潟を中心とした内湾域の多くの二枚貝類が貝剥きに用いられ、特徴的な「貝剥き文化」が成立している。今回の研究では、東京湾における貝剥き文化の起源・展開・他地域との比較を総合的に行った。その結果、1)東京都港区芝で近世から近代の「港区芝雑魚場跡」遺跡で貝剥き跡を検討することができた。この遺跡は、最大層厚約2m、距離300mにも達する貝塚で、主体部はほとんどバカガイから構成されていた。バカガイは、東京湾の先史時代にはほとんど食用とされていなかった種であるが、近世期から貝剥きが開始されることによって、急に利用が拡大したと考えられた、2)この貝剥きは近世期に関西からもたらされたと考えられた、3)貝剥き後の貝殻は貝灰として利用された、4)貝剥きには、シオフキ・サルボオ・アカガイ等の数種が選択的に用いられていた、5)貝剥きの道具として、刃部が長く、柄を持つ剥き包丁が用いられ、利用する種類ごとに多少の形態変化が認められた、6)現代でも、浦安市や富津市で貝剥きが行われていた、7)特殊な例であるが、縄文時代のハマグリに貝剥き痕跡を初めて発見した、8)アンケート結果から、やはり東京湾沿岸では貝剥きは一般的あったが、およそ30歳を境に急激に認知度が減少していた等のことが明らかとなった。他地域との比較では、西日本の三河湾・伊勢湾・豊前海で貝剥きを確認した。ただ、瀬戸内海と有明海では、剥き身ではなく、茹でて身を販売していた。国外では、韓国・香港・ベトナムで貝剥きを確認できた。ただ、後2地域では伝播の可能性も想定された。
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