本課題の初年度にあたる平成17年度は、申請時の研究計画においては準備作業期間として位置づけられている。すなわち、清朝前期の刑案史料を中心とした各種の史料収集、および次年度以降の本格的な研究分析作業に向けた史料整理作業を行うことを予定していたが、本年度はこれらの作業をほぼ計画通りに終了させることができた。具体的に言えば、まず史料収集に関しては、平成17年8月に東京大学東洋文化研究所にて、清代前期の刑案史料に対する実地調査を実施し、その結果を基に「例案全集」(主に康煕年間(特に後半期)の事案を収録)、「成案彙編」(主に雍正〜乾隆前半期の事案を収録)、「成案続編」(主に乾隆年間の事案を収録)等の史料につき必要部分の複写を入手した。なお、当初の計画では、デジタルカメラによる撮影で史料を入手する(線装本漢籍は複写機によって直接複写することができないため)予定であったが、8月の実地調査で写真複写による紙焼きの複製本が既に存在していることが判明したため、予定を変更して通常の複写機による複写に切り替えた。また、史料の整理に関しては、上述の新規収集史料ならびに既存の史料(主として清代後半期の事案を収録した刑案史料)の中から、自首や復讐に関する事案の拾い出し作業を現在行っているところである。なお、作業途中に気づいた点として、父母の仇に対する復讐に関連した事案が、予想したよりも少なかったことを指摘しておきたい。このことは、そもそも清代においてこうした復讐事案の発生自体が少なかったためなのか、それとも単にこれら刑案史料の中に復讐事案があまり収録されなかっただけのことなのか、現時点では判然としないが、もし後者の理由であれば、復讐に関する事案を可能な限り多く収集するために、次年度以降は刑案以外の史料(例えば「清実録」や地方官の判牘等)にも目配りをして行かなければならないであろう。
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