本年度は、「一義的に明晰な法律は、解釈されない。In claris cessat interpretatio.」(以下、ICルールと略記する)というヨーロッパ普通法の解釈原則について検討した。この原則は、17世紀において頂点に達し、中世のヘルメノイティクから近代ヘルメノイティクへの移行をもその一因として、19世紀初頭、ティボー、サヴィニーにおいて終焉を迎える。本研究では、以下の4点を確認し、「サヴィニーにおける『法律解釈の一義的明晰性ルール』について」と題する論文にまとめた。 第1に、14世紀の注釈学派における「解釈」概念が、significatioとinterpretatioとに分かれており、ICルールを採用していなかった。 第2に、その後、「解釈」概念を、interpretatio decralativaに限定し、interpretatio extensivaとinterpretatio restrictivaを立法者の専権事項とする見解がICルールを採用するに至った。 第3に、人文主義法学によって再び「解釈」概念に変質を来たし、ICルールを斥けて、interpretatio extensivaとinterpretatio restrictivaを「解釈」に取り込むに至った。その背景には、中世的言語観からの脱却が見られる。 第4に、サヴィニーは、独自の道を歩んだ。狭義の「解釈」を、表現と思想とのズレの問題として捉え、Interpretatio extensivaとinterpretatio restrictivaの一部を狭義の「解釈」に取り込む。そのうえで、残部を類推と継続的法形成に二分し、前者を解釈に含めるが、後者を純粋な解釈から締め出して、裁判官による継続的法形成を禁じた。 サヴィニーにおいて類推とは、ティボーとは異なり、法制度の有機的な連関のなかでの法命題の案出を意味する。
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