平成17年度は、当該研究に必要な文献・資料の収集、及びその検討を始めた。横浜国立大学図書館に古い日本語・英語(書籍・雑誌など)の法学文献が少なく、社会学等の文献はさらに少ないため、ない図書については積極的に購入し、雑誌文献については複写請求を行った。勿論、2001-2002年度に貴会科研費奨励研究(A)・若手研究(B)「『家族』の憲法学的研究」やそれ以外の研究費によって購入した図書、個人的に所有する図書等は、十分に活用した。当初は、本研究の主テーマの一つである生存権規定の解釈がどのように変貌してきたのかを、本研究の最も基盤的研究として進め、可能な限り研究初年度中に発表する予定であったが、2005年10月に交付が決定されたため、期間が半年となり、それは難しくなった。よって、基本的な研究を進めることを旨とし、ジェンダー法関係の論説等にその成果をできる限り反映させることを狙った。 先に法律時報78巻1号(2006年1月)の特集への執筆が決まっていたので、まずはこれに標準を合わせて研究を進めた。研究は、日本国憲法がジェンダー概念をどう取り扱っているかを中心に進めた。日本国憲法は「性別」による差別を禁ずるが、制定当時にポピュラーではない「ジェンダー」なる語は用いていない。しかし、生物学的・生殖に関する差異以外を考慮することは厳格に考える結果、基本的にはジェンダーによる差別は殆どが違憲の結果を導かれるのではないかとの結論を導いた。しかし、「家族」構成に関して、日本国憲法は婚姻を「両性」の合意によるとしており、男女が夫婦となることを前提としている。婚姻は生殖を必須のものとはしないが、同性婚を許容するかどうかは微妙であり、あるいは「セックス」を理由とする線引きを認めざるを得ないかもしれないと、指摘した。 加えて研究代表者は、伊藤公一先生(帝塚山大学法政策学部教授・大阪大学名誉教授)の帝塚山大学退職記念号への執筆の機会を得ていたが、そのテーマとして、社会権研究の第一歩として、公務員の労働基本権について再考することを選んだ。伊藤先生は教育公務員の人権制限についても多くの研究を残しており、この点でも相応しいものと考えたからである。今回の論説は、主に、その判例で用いられた合憲限定解釈の手法と、その後の判例でのその否定に焦点を当てたものである。合憲限定解釈が一般的には当然認められる手法でありながら、実際には用いられるべき場面が限定されることを指摘した。この点、労働基本権を含む社会権の司法審査基準は中間審査基準(厳格な合理性の基準)であることが一般に言われるものの、果たしてそのことで日本国憲法全体を整合的に理解できるのかに疑問を投げかけることになったと言える。なお、本論説の刊行は2006年3月が予定されており、本報告には間に合わない。
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