研究課題
平成18年度は、当該研究に必要な文献・資料の収集、及びその検討を、前年度に引き続いて行った。横浜国立大学図書館等にない図書については積極的に購入し、雑誌文献については複写請求を行った。勿論、2001-2002年度に貴会科研費奨励研究(A)・若手研究(B)「『家族』の憲法学的研究」やそれ以外の研究費によって購入した図書、個人的に所有する図書等は、十分に活用した。伊藤公一先生(帝塚山大学法政策学部教授・大阪大学名誉教授)の帝塚山大学退職記念号に、社会権研究の第一歩として、公務員の労働基本権について再考することを選んだ。主に、その判例で用いられた合憲限定解釈の手法と、その後の判例でのその否定に焦点を当てたものである。合憲限定解釈が一般的には当然認められる手法でありながら、実際には用いられるべき場面が限定されることを指摘した。この点、労働基本権を含む社会権の司法審査基準は中間審査基準(厳格な合理性の基準)であることが一般に言われるものの、果たしてそのことで日本国憲法全体を整合的に理解できるのかに疑問を投げかけることになったと言える。引き続き、この疑問を拡大して、二重の基準論そのものを検討し、生存権的基本権の司法審査の在り方もこの中で触れるような必要性を感じるに至った。研究代表者は、佐藤幸治先生(近畿大学法科大学院教授・京都大学名誉教授)古稀記念論文集に執筆する機会を得ていたが、そのテーマとして二重の基準論を選んだ。学界の通説が、精神的自由の内容中立規制や経済的自由の消極目的規制、生存権的基本権規制などを中心に、中間審査基準(厳格な合理性の基準)を多用することに対して疑問を投げかけるものである。本稿は平成18年度中に完成されているが、〆切が平成18年12月から平成19年8月に延期されたため、公刊は早くても平成19年度中になることを付記する。このほか、小田八重子=水野紀子編『現代家族法実務大系第1巻-親族1』にも、「家族法におけるジェンダーの視点」という論稿を寄せた。「近代家族」が所与のものではなく、一種のイデオロギーとして選択されてきたこと、日本国憲法24条の解釈からそれが当然のものではないこと、それが日本の労働・教育などの政策にも大いに影響を与えるであろうことなどを指摘した。本稿は〆切であった平成18年4月末までに完成したが、同書は本年度中刊行の見込みもなく、このため本稿の公表の見込みも立っていない。
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帝塚山法学 11号
ページ: 35-65
『現代家族法実務大系第1巻-親族I』(小田八重子, 水野紀子編)(新日本法規) (掲載決定)
国民主権と法の支配(佐藤幸治古希記念)(成文堂) (掲載決定)