本研究の目的は、社会的排除の現実を解明し、これを克服するための方策を比較憲法学的研究及び臨床法学的方法を用いて明らかにすることである。 日本における社会的排除の特徴は、雇用からの排除、社会保障からの排除が、住居喪失を招き、さらに「権利をもつ権利」としての市民という資格剥奪をもたらし、「権利をもつ権利」を失い路上に生きる人びとが日常的な監視と排除に曝され、矯正施設に収容され、出所後も再び路上にほうり出され、社会に居場所を持つことを許されない悪循環が成立している点にある。これは雇用や社会保障制度が全く異なる米国と結果において一致している。 この連鎖を断ち切るための鍵となるのは、米国とはまったく異なる最後のセーフティーネットたる普遍的最低生活保障制度としての生活保護をである。しかし、生活保護制度を活用するためには、雇用・社会保障・住宅保障における重層的なセーフティーネットを整備することが必要である。現在、これら重層的なセーフティーネットが破綻し、最後の砦としての生活保護にすべての負担が集中されられているため、生活保護制度自体が機能不全に陥りがちである。その典型的な例が、稼働能力がある住居喪失者へ申請拒否等である。この明らかな違法を正当化しているのは、本人が勤労の倫理に反しているからであるという想定である。そのため生活保護法運用を是正し、その機能を回復するためには単に貧困の現実を訴えるだけでなく、社会的排除の連鎖が成り立ち、生活困窮者から自由な幸福追求の条件を奪っているだけでなく、社会的な不安を高め、リスクを拡大している構造の実証的解明が必要である。本研究はこの点において、一定の成果を挙げたものということができる。
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