当初の研究実施計画に則り、(1)経済的自由に関する従来の憲法学の理論状況の調査・分析、(2)リバタリアニズムを巡る政治理論・法哲学の議論状況の調査・分析、(3)民営化や規制緩和の「お手本」となったイギリス憲法の理論状況の分析を行った。 研究成果との関係で整理すると、論文「憲法学はなぜリバタリアニズムをシリアスに受け止めないのか?」では、経済的自由に関する従来の憲法学説の考え方を整理して、憲法学がリバタリアニズムの問題提起をシリアスに受け止めないのはなぜかを明らかにし、そのうえで、原理論レベルでのリバタリアニズムの問題提起に応答していくことによって、経済的自由に関する憲法学説を再構築していくことが必要であることを明らかにした。同論文は、研究実施計画の(1)と(2)の調査・分析の一部を公表したものである。 図書『現代立憲主義の認識と実践』に掲載した拙稿「立憲主義、法の支配、コモン・ロー」では、法理論の枠内で「法の支配」を厳密に定義して、そこから様々な解釈論上の帰結を導き出す、T.R.S.アラン教授の憲法学説を批判的に検討した。その際、アラン教授の学説が、本人の意図に反して、ハイエク流の新自由主義的な「法の支配」論になっていることを明らかにした。同論文は、研究実施計画の(3)の調査・分析の一部を公表したものである。 今年度において、行った調査・研究のうち、まだ論文として公刊できていないものは次のとおりである。 (1)独占禁止法の改正など、市場に関する法制度の改変との関係で、経済的自由に関する憲法学説の動向を調査・分析した。特に今年度は、経済法関係の資料・文献の調査・収集と解読・分析を行った。 (2)男女共同参画におけるポジティブ・アクションも市場に対する国家関与の問題であることから、その法理論的検討を行った。 以上の調査・研究の成果は来年度の早い時期に、論文として公刊する計画である。
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