本年度に行った研究の第一の柱は、「国家の信条的中立性」にかかわる。「国家の信条的中立性」は、日本国憲法において明文では規定されていない。そこで、このような客観法原則を持ち出す前に、思想・良心の自由という権利論によってどこまで問題を処理できるのかを確認しておく必要がある。この領域における最近の議論の焦点は、公立学校の入・卒業式における「日の丸・君が代」の強制という問題である。この点に関する裁判例や学説の動向を、「保護領域・侵害・正当化」というドイツにおける基本権ドグマーティクの枠組を用いて整理し直した(法政研究73巻1号論文)。この問題については、この論文公表後、2006年9月に東京地裁による違憲判決があり、また2007年2月には最高裁による合憲判決があるなど、注目判決が続出しているため、今後も継続して研究を行う予定である。 第二の柱は、「法の支配」にかかわる。国家が「倫理的中立性」に反する行為を行った場合、それをコントロールするのは司法部である。司法がそのような任務を行うに際して、「法の支配」という理念が主張されてきた。最近の日本では、この「法の支配」に関して、潜在的な、一部は顕在化した見解の対立が存在する。この状況を、いくつかの観点から整理し、「国産論争」として再構成したうえで、今後のあるべき議論の方向性を探った(岩波講座『憲法』第一巻掲載予定論文)。このような作業は、客観法原則違反の行為をいかに統制すべきかという将来的な検討課題を考える際の基礎をなすものと思われる。
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