「裁判所における国際人権条約の適用」という問題は、司法化や人権レジームの形成過程にある現在の国際社会において、また、そういう背景のもとで国際化のすすむ日本においも、きわめて今日的な課題であるだけでなく、憲法と国際条約の関係という重要な問題を提起している。 本研究により、日本の裁判所、特に最高裁判所における国際人権条約の適用に関しては以下のような問題点を指摘することができる。第1に、国際人権条約を『法律に優位する規範』、すなわち、法律をコントロールする法規範として適用していない。これは、憲法98条の解釈における条約と法律の関係の明確化が要請される。第2に、憲法と国際人権条約との具体的な条項に関する違いを認識していないことから、憲法と国際人椎条約を同視する傾向にある。これは、個々の人権条約のほとんどが独自の監督機関を有し、条約解釈を積み重ねていることを勘酌するならば、条約遵守という意味においてこれらの条約解釈を固有のものとして尊重することが要請されると考えられる。憲法と国際人権条約の法的な違いと、監督機関が異なるという異質性に関する法的な認識が必要となる。第3に、日本が批准した条約は、拘束力の強いコントロール法歩を採用していないという理由から、目本における実効性は低いが、条約の批准に伴って国家が条約履行という義務を負うが、そのことの提起する憲法上の課題、特に司法権の独立との関係については、国際社会の司法化現象との関連で理解する必要があることは、フランスにおける人権条約の適用の状況に関する理論から類推することができる。フランスでは、ヨーロッパ人権条約の国内裁判所における適用に関して、「憲法ブロックへの条約ブロックの統合」という議論まで提起されるほどに、規範としての「憲法上の人権規定」と「人権条約」との質的な同質性が強調されている。 今後は、さらに、日本の国内裁判所判例における人権条約の適用に関する考察を深めるとともに、フランスにおける人権保障および人権概念に対するヨーロッパ人権条約の影響を検証することが課題である。
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