研究概要 |
今年度は,インターネット上での著作権侵害に関する比較法調査を進め,とりわけアメリカ合衆国,欧州共同体ならびに南米の判例及び学説の動向について研究を行った。 アメリカ合衆国においては,近時,インターネット上での音楽ファイル交換をめぐってプロバイダー及びプログラム開発者の責任が問われるようになってきており,注目すべき連邦最高裁判決が相次いで出されている。そこで,今年度は,まず第一にアメリカ合衆国の実質法上の動向について調査を行った。また,アメリカにおいては,国際知的財産法について,国際裁判管轄及び準拠法を決定する際の望ましいルールを整備する動きがアメリカ法律協会(ALI)を中心に進んでいるが,そのルールを検討する作業も行った。さらに,オーストラリアにおいても比較法調査を行った。 欧州共同体についても,インターネット上の商標権侵害に関する注目すべき判例が出ているため,その検討を行った。また,欧州共同体においては,域内での国際裁判管轄に関するルールはすでに2000年ブリュッセルI規則によって統一されているが,著作権侵害が起こった場合等の準拠法決定については統一ルールが存在していない。この点については,ベルヌ条約5条2項の解釈から,当然に保護国法の適用が導かれるとの議論もあるが,必ずしも自明ではない。そこで,現在,欧州共同体においては,EC規則の形で契約外債務の準拠法決定に関する統一ルールを作成する動きが進行中であるが(いわゆるローマII規則),その制定過程における議論状況についてもフォローアップした。また,ドイツ・ミュンヘンにあるマックス・プランク研究所(MPI)が行っているルール化の作業及びその提案内容についても検討した。 南米については,わが国にいたのでは情報収集が不可能であるため,2005年10月にブラジル及びアルゼンチンに赴き,現地での調査を行った。南米においては,国際知的財産法に関する議論はまだ開始されたばかりであるが,国際裁判管轄及び準拠法決定に関するCIDIP諸条約,MERCOSUL諸条約ならびにブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,パラグアイなどの各国の国際私法のルールは,わが国ではほとんど知られていないため,現地において調査を行うことで,多くの成果を挙げることができた。
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