私の研究課題は「国際刑事裁判権の発展の国際慣習法に対する影響」である。前年度はユーゴ国際裁判所が一定の法規を国際慣習法であると認定する際にどのような問題があるかを検討し、結論として、ユーゴ国際裁判所は特定の国の裁判例を多用するなど認定に問題があることを指摘した。しかし、ユーゴ国際裁判所における国際慣習法の認定については、有力な研究者からのそれを高く評価する見解が表明されているなど、学説は一致しない。ところで国際慣習法の原則は伝統的には国家に対する規範として機能していたのであり、ユーゴ国際裁判所においては実質的な刑法として機能していることにより注意すべきではないかと思われる。 さて、ユーゴ国際裁判所が設立された際に、国連事務総長は国際慣習法が適用される理由として、関連条約に対する関係国の批准の違いに対する考慮があったことをその報告書で明らかにしている。つまり国際慣習法の「一般法」であるという性質が重視されたのである。しかし国際慣習法が一般法であるという特質について、その後のユーゴ国際裁判所の判例ではあまり注意が払われていない。例えば人道に対する罪の一つである「迫害」の概念についても、国際慣習法の伝統的要素である国家実行や法的確信を詳細に検討するのではなく、むしろ国際社会の良心に衝撃を与えた犯罪に立ち向かう意思が重視されて認定が行われでいる。このようにして認定された国際慣習法は特に慣習人道法customary humanitarian lawと呼ばれるようになっている。伝統的国際慣習法は国家を対象とするものであるのに対して、(国際裁判所で適用される)慣習人道法は個人を対象としており、実質的に刑法として機能しようとしている。これを伝統的国際慣習法の一部として評価すべきかどうか、次なる課題であると思われた。
|