本年度は、以下のような研究を行った。 1.研究の中間段階の成果として昨年度から執筆を始めた論文を公表した。アメリカのロバート・スタイナーの理論を手がかりとして、我が国の再販売価格維持事件とそれに関連する事件の審決および判決を検討、整理する作業を行い、公正取引委員会による再販売価格維持行為の規制において、垂直的な協調関係にある事例が存在することを意識した法運用が必要であることを明らかにした。 この研究については、東京の経済法研究会及び北海道大学の経済法研究会で報告を行い、経済法の研究者及び事務経験者と意見の交換を行った。この研究は、12月、専修大学法学部の紀要に「縦の協調関係にある再販とその規制」として公表した。 2.EUの垂直的制限規制について、文献調査を行った。EUの垂直的制限に関する一括適用免除規則の改訂とこれに合わせた垂直的制限ガイドラインの作成の前後から最近に至るまでの垂直的制限に関する論文を調査し、情報システムと垂直的制限の関係がいかに論じられているかを調べた。その結果、当初予想していた、製造業者と流通業者が流通の効率化等を目指して情報システムを構築し、密度の濃い情報交換を日常的に行うことにより生ずる拘束関係の他にも問題が生じうることが明らかになった。例えば、インターネットにより消費者に商品を販売する機会が増えることにより、従来の地域制限の分類では捉えられない事例が生じる可能性があること、ウェブサイトの表示方法に関する製造業者による販売業者の拘束をいかに扱うかなどである。 3.EUの研究と並行して、我が国における情報システムと垂直的制限の関係に関する文献研究も行った。ここでは、情報システムの整備により製造業者が小売り販売に関する詳細な情報を入手できるようになれば、小売価格など流通業者の監視が容易なり、流通業者への拘束が容易になるおそれがあることなどが明らかになった。
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