本研究は、わが国における地域医療分野における競争政策上の課題を、医療のIT化をめぐる問題を中心に明らかにし、その解決のための法規制について、具体的な政策提言を行うことを目的とした。本研究は、まず、医療法、医療分野における独禁法による法規制等現行法に基づく医療分野における規制の把握及び米国における比較法研究から出発した。米国法については、平成16年7月に公表された「医療分野における競争に関するレポート」の内容に関する検討及び関連する文献についての調査を行った。平成18年度に医療法の第五次改正がなされ、本研究に関しては、患者・国民の選択の支援に資する医療に関する情報提供の推進を図るために、都道府県を通じた医療情報の提供制度が創設され、また、医療に関する広告規制制度の見直し等がなされた。この改正内容および運用状況について、医者と患者間に存在する情報の非対称性を是正し、医療サービス情報の質の確保をどのように図るかという視点から、検討を行い、研究内容を論文として公表した。地域医療分野の実態に即した法的検討を行っている点で、意義を有すると考えられる。また、研究過程において、地域医療における英国、ドイツにおける調査やわが国における医師等の地域医療従事者等のヒアリング調査を行い、現状と問題点を明らかにすることに努めた。当初、本研究において検討を予定していた電子カルテシステムやレセプトのオンライン請求等のシステム間の相互運用性の確保といった競争法上の問題は、医療機関にとって、設備投資の負担が重い等の理由からネットワーク化自体が遅れているため、十分な実態調査および検討ができなかった。医療提供体制における競争法上の問題として、今後の研究課題としたい。
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