わが国の社会保障制度では、社会保険が中核的地位を占めている。わが国の社会保険は、一般制度としての年金保険、医療保険および介護保険があり、特別制度としての労働関係に特有の労災と失業を給付事由とする労働保険(労災保険と雇用保険)がある。そして1950年代後半から1960年代初頭にかけて整備された「国民皆保険・皆年金体制」をわが国における社会保険の原型とすると、その特徴の一つは被用者保険と非被用者保険の二本建制度であった点である。しかし、わが国における社会保険の原型は、これが形成されて約半世紀を経過した今日までに劇的に変容してきた。具体的には、1982(昭57)年の老人保健法による老人医療制度、1985(昭60)年の新・国民年金法、2000(平12)年実施の介護保険法において本格的に導入された保険者拠出金制度、基礎年金における第3号被保険者の保険料徴収対象からの除外、介護保険法における第2号被保険者の保険料負担と給付との極端な希薄化等、である。 本研究では、特に、以上のような社会保険給付の費用負担関係に現われている急激な変化に着目し、費用負担に関する新しい規範論理の構築を目指した。その研究成果は、以下の研究報告で発表済みである。1.「社会保障法体系論からみた社会保険の規範的意義」社会保険法理研究会、平成18年5月7日、熊本大学、2.「労災補償の生活保障理論-その形成と展開-」荒木先生生誕82年祝賀研究会、平成18年10月21日、唐津シティホテル、3.「労災補償の生活保障理論-その形成と展開-」社会法研究会、平成18年12月9日、熊本県立大学、4.「(論文紹介)江口隆裕『社会保険と租税に関する一考察-社会保険の対価性を中心として-』」社会保障法研究会、平成19年3月27日、鹿児島大学、5.「社会保険給付における費用負担の法関係」社会保険法理研究会、平成19年6月30日、熊本大学、6.「社会保険給付費用の負担の法関係」社会法研究会、平成20年2月2日、九州大学。 本研究で明らかになったことは、社会保障法における財源調達手段としての社会保険システムについて、今日の段階では対価性という規範論理のみでは把握できず、個別の保険者集団を越えた一種の社会連帯が存在しており、その社会連帯の主体、要件、内容を明確化することが求められていることである。
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