本研究では、経済犯罪に係る法的規制のあり方について、インサイダー取引罪、相場操縦罪及び不当な取引制限の罪を素材に、比較法的視点を交えて検討した。 EU諸国ではEU指針により、ドイツやフランスが証券取引規制について犯罪化を進めたこと、EU競争法は制裁金を中心とするが、イギリスではハードコア・カルテルに、ドイツでは入札談合について刑罰が科されうること、アメリカでは、経済犯罪に対して刑事罰を含めた多様な制裁が用意されていることなどの特色があり、これらの国々の運用実態についての分析を進めた。 日本では、証券取引法に新たに課徴金制度が導入され、独占禁止法においても措置体系が抜本的に見直されたことから、法改正の動きに留意しながら、現行法の解釈論上の問題点を、判例・裁判例を素材に検討した。 研究成果報告書では、このうち、わが国における上記犯罪の成立要件を、判例・裁判例の分析も交えて、具体的に検討した。具体的には、インサイダー取引罪の解釈において、判例・裁判例はかなり「実質的な」解釈方法を用いていること、村上ファンド事件では、未必の違法性の意識ともいえる心理状態を量刑上有利に考慮しているが、実務的感覚からは批判のあること、不当な取引制限の罪に関して、最近の裁判例はこれを継続犯として理解したが、実行行為を共同遂行と考える立場からは、そのような構成を取る必要もなく、また、実際の事案においても必ずしも継続犯とは言い切れないことなど、を指摘した。
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