研究概要 |
研究の初年度にあたる本年度は,当初,事故調査と刑事司法制度との関係に関わる問題点を細部にわたって洗い出すとともに,それに関する諸外国の制度を調査,分析することを研究の主たる内容とする予定であった。 しかし,この間にも,2005年4月のJR福知山線の脱線事故を初めとして,大規模な事故が起きるとともに,本研究の課題である事故調査と刑事司法制度に関する社会の関心も急速に高まった。そのため,今後の議論のあるべき方向を明確にするためにも,今年度中に,中間的なものであれ,自分なりの考え方をまとめ公表する必要があると考え,問題点の整理とともに,ありうる解決策を探る作業を行った。そのうえで,その結果を,いくつかのシンポジウムや研究会で報告するとともに,雑誌論文として公表した。 その要旨は,第1に,既存の制度の下での刑事責任の追及と事故原因の究明は,一定の場合には対立する場合があること,第2に,しかし,その解決のために刑事責任をおよそ問わないという方法は妥当ではなく,事故原因の解明の妨げとなっている要因を解消する方向で考えるべきこと,第3に,その方向での具体的解決策としては,(1)業務上過失致死傷罪への法人処罰の導入により,刑事責任の追及のあり方を事故原因の究明に役立つ方向に変える,(2)捜査機関と事故調査機関との協力関係を緊密にする,(3)一定の範囲で,事故調査によって得られた資料の刑事手続での利用制限を認める,という3つのものが考えられることである。
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