本研究は、研究代表者が2年間をかけ単独で実施するものである。本年度は、その2年目の最終年度であり、以下の3段階に分けて研究を実施した。 1)第1段階として、アメリカ合衆国における企業統治機構改革及び企業経営改革に対する組織体刑事責任論の対応の詳細及び判例実務について学習し、批判的に検討した。SOX法等による個人責任追及の激化が、組織体刑事責任の追及を現象的には例外として位置付けることとなっている観は否めないし、理論構成としてもコンプライアンス論を促進することとなっているが、実体的な組織体刑事責任論の視座自体に修正を迫るものではないと判断され得た。なお、当初計画で対象としたコモンウェルス諸国の状況は、時間的及び資料的制約から断念した。機会を得て補完したい。また、スイス刑法等の新たな理論的アプローチについては、国内でも既報となった為、総括で取り上げることとした。 2)第2段階として、国内では入手困難な資料及び情報収集又研究者との意見交換の為、2006年8月7日から20日までアメリカ合衆国に渡航し、シアトルのワシントン大学及びフィラデルフィアのテンプル大学で、所期の活動を行った。合衆国における企業統治機構改革内での刑事制裁の利用に関する意見等も得られ、第1段階での判断を補強することができた。 3)第3段階には、昨年度及び第1〜2段階で行った検討・分析、即ち、我が国及び合衆国等における企業統治機構改革・企業経営改革が組織体刑事責任論に如何なる影響を与え得るのか、与えているとすれば如何に対応しているのか、あるいは対応すべきか、という検討・分析に基づいて、研究代表者が近時に提示した理論構成の修正もしくは変更の必要性を検討し、より現状適合的な組織体刑事責任論を提示し直すことを試みた。独禁法執行手段関連の継続的議論、監査法人に対する刑事罰の導入論議等々、同時並行的な動きがある為、また、新たな理論展開も見られる為、最終的な研究成果を纏めるには尚若干の時間を要するが、可能な限り早期に所属部局の機関誌等で公表する予定である。
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