本研究は、「患者-医師関係の法的構造」・「医療被害に対する法的救済制度」という医事法の総論的課題を考究した本研究代表者自らの先行研究に連関させつつ、「遺伝子医療の実践にかかる法的課題」を包括的に抽出したうえ、ことに「遺伝子医療の実践に関する民事法的考察」の基本につき鋭意検討を加えようとする継続的研究である。 本年度は初年度として、本研究の基礎的研究作業を遂行することを目途に立案された。まず基本的に、「遺伝子医療」(遺伝子治療・遺伝子研究)の実状や輻輳する問題性等につき、できうる限り広範な内外情報の蒐集・整序作業を持続的に蓄積することから着手され、法的な観点にかかる研究素材としても、民事法的視角に止まらず、広く、「遺伝子医療の実践にかかる法的課題」の総体につき、可及的な情報収集・整序作業が蓄積された。具体的には、人権論的(憲法論)的検討、行政法的検討などをも意識しつつ、遺伝子医療の法的な観点にかかる研究素材の渉猟・収集等を目的として、国立国会図書館(法制資料室)、比較法制国際センター(東京大学)、名古屋大学等での国内調査研究のほか、直接、イギリスに出向いての国外調査研究を遂行した。比較法学研究の調査対象は、本研究代表者が先行研究において手掛けたイギリス法・スウェーデン法を超え、一層網羅的に、オランダ等の大陸法などにも及び、焦点の民事法的考察に集約させる前提作業が手掛けられた。これら一連の整序作業を通じ、民事法的考察にあっても遺伝情報の特殊性が問題の核心であること、イギリスを始め、各国が一定の規制手法の確立を企図すること等、一定の基礎的知見を獲得することができた。 これらを基礎に、次年度において、本研究がさらに精緻に展開し、その全体像が完結されることが期待される。
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