本年度は、3つの課題について検討を行った。 第1は、民法学における「市民社会論」、「社会法論」、「民法における弱者保護」など、本研究課題に直接関連する論争点についての学説史的検討である。とくに戦後日本の民法学におけるこれらに関する理論史を検討し、市場における商品交換の規律を対象とする民法学の内部に社会的公正、公平を目指す思想的伏流があることを明らかにした。民法学の主流は市場経済における基本法としての民法が効率的に運用されるような法理論の形成を課題としてきたが、これと対抗する潮流を発展させることが民法学の重要な課題であることを明らかにした。 第2は、社会福祉、社会保障学における最近の理論状況の進展を探求した。とりわけ、近時論点となっている「社会的排除と包摂」、「アジア的福祉国家論」についての検討を進めた。その検討の一部は、平成17年9月に神戸において開催された「Asia Pacific Network for Housing Research」学会の基調報告において、「The Rise and Fall of the Idea of Right to Housing?」と題する報告のなかで紹介した。 第3は、近時の政治学の領域における研究動向をフォローした。とくに、国家論における「制度とガバナンス」に関する研究を深めた。 なお、後者の2点に関しては、アメリカにおける海外調査を予定していたが、国際教養学術院院長の職務にあるため、その時間的な余裕を見いだすことができず、実現できなかった。次年度の課題としたい。
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