子の権利の保護のための司法と児童福祉法制の連動のあり方を研究するため、その基礎モデルとしてドイツの児童保護法制を検討することとし、その基礎作業として、ドイツの実体親権法と児童福祉の架橋となるドイツ社会法典第8編「児童ならびに少年援助」(2007年1月現在)の全条文を翻訳した。その翻訳については、別掲の平成17年度・18年度科学研究費補助金研究成果報告書「子の利保護のためのシステムの研究-実体親権法と児童福祉法制の連動のあり方-」に公表した。また、同じく基礎作業として、2006年11月に公表された、ドイツ連邦司法省の作業グループ報告書「子の福祉の危険の場合の家庭裁判所の処置」(2006年11月)を全訳し、これも前掲報告書に掲載、公表した。これらは、わが国では初めての作業であり、研究代表者と分担者の共同作業である。その他、この作業と平行して個別に研究を進め、研究代表者は、これも別掲のとおり、「ドイツの家庭裁判所」、「暴力によらずに教育される子の権利-ドイツ民法のアピール-」、「ドイツにおける『子どもの代弁人』(Anwalt des Kindes)」など、ドイツ親権法少年援助法、家事手続法等に関する論文を、また研究分担者鈴木博人は、「ドイツ法における交流権」、同高橋由紀子は「里親による監護と親権」などの論文を、逐次発表した。 これらの研究を通じ、ドイツの児童の権利保護のシステムが、裁判所と児童福祉行政当局(少年局)との密接かつ体系的な連携によって組み立てられていること、児童の福祉に危険が及ぶ場合の対応においては、親の養育に対する介入よりも援助を先行させ、可能な限り親と子の関係の維持を図ろうとしていること、危険が危急に迫る場合には、手続の迅速ときめ細かい回避処置の実施が企図されていることなどが、明らかとなった。マンパワー、予算などの面で隔たりがあるとはいえ、これらの仕組みと対応姿勢は、わが国でも十分に参考となると考えられる。
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