研究者は、以下のことを研究し、明らかした。 第一に、(1)中国事業展開におけるトラブルを類型化し、その発現原因を検討しつつ、リーガルリスクの所在を明らかにした。トラブルは、(1)中国の政治・経済体制、または経済の発展過程(市場経済化のレベル)から生じる問題、(2)法制度から生じる問題、(3)中国人の法意識、(4)外資に対する意識から生じる問題、および(5)日中間に固有の問題に類型化することができる。 第二に、(2)中国人の法意識(権利意識、契約意識、紛争解決意識)を検討した。権利意識は、契約が遵守されないときには紛争・訴訟というかたちで発現するが、中国で訴訟が増えている。 第三に、(3)現行の中国における紛争処理法の課題について検討した。中国では、裁判制度の問題として、とりわけ地方法院における公平性の確保という事に関して信頼がもてないという指摘がされる。裁判は回避したいというのは外国企業の共通項である。国際商事仲裁についても、仲裁機関事務局、仲裁人、および手続上の公正さについて実務上の問題点が指摘される。中国企業とトラブルが生じたときには、(1)係争金額が比較的に小さく、(2)紛争当事者間で長期的なビジネスを継続する可能性が高く、(3)多少の妥協はしても早期解決を図ることがコスト的にも有利であると考えられるようなケースにおいては、調停による解決が適当である。 第四に、(4)人事労務問題と法実務の問題について検討した。労働契約、労働協約のあり方が重要になる。 第五に、(5)中国ビジネスにおける今後の課題について、ビジネスリスクの未然防止という観点から中国進出企業の企業統治および会社の社会的責任のあり方が重要になる。
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