一般に国際機構の正続性は、それが与えられた目的と権限の範囲内で任務を効率的に達成することに求められる。このようなテクノクラート的正統性およびアウトプット面からの正統性に対して、国際機構の民主的正統性は国際機構それ自体ではなく、加盟国の民主主義に依存する。そのため、国内的には国家の関連政策決定過程に市民の声ができる限り反映されることが求められる一方、国際機構のルールはできるだけ柔軟性の余地を残して国家の自律性を損なうことを避けようとする。 しかし、国際機構の民主的正統性を加盟国の民主主義に求めるアプローチに対しては、市民が国際的な決定により影響受けるにもかかわらず、国際機構における政策決定過程からまったく排除されているという意味での「民主主義の赤字」批判がなされ、それを解消するために市民社会組織を国際機構と一般市民の間に媒介させることを意味するトランスナショナルな民主主義が主張されるに至っている。 これに対し、EUでも当初、一般の国際機構と同様に、テクノクラート的な効率性に基づくアウトプット面からの正統性に依拠するとともに加盟国から民主的正統性を調達するアプローチがとられた。その後、他の国際機構一般に見られない特徴として、EUでは超国家的権限の行使に対して、直接選挙された欧州議会が民主的コントロールを加えるという制度が確立され、強化されている。 しかし、EUの権限の範囲(例えば環境政策や消費者保護政策の追加)と程度(例えば調和措置による国内立法の排除)および政策決定方式(コミッションの提案権独占と理事会における特定多数決)によりそのような民主的正統性は限界に達している。2005年5月29日フランスおよび6月1日オランダにおける国民投票による欧州憲法条約の批准拒否に示されるように、EUレベルの民主的正続性は十分ではないと市民から受けとめられている。
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