第1に、EUにおける立憲的多元主義の最新動向について研究を深めるため、とくに超国家的統治が行われる空間である域内市場に着目し、物・人・サービス・資本の自由移動の下でいかなる権限配分がEUと加盟国の間でなされているのかについて、EU法の下における基本的人権に関する欧州司法裁判所の判例法の検討を通じて考察行った。EU法の範囲外にある「まったく国内的な状況」が狭く解釈されることにより、盟国の規制権限の範囲も制約されていることが判明した。 第2に、条約レベルでの立憲化がどのように進められているのかについて欧州憲法条約に代わって制定されたリスボン条約の調査研究を行った。リスボン条約は伝統的な条約改正の形式をとりながらも、基本的には欧州憲法条約の主要規定を引き継いでいる。その特徴の1つは、EUと加盟国の間の権限関係の明文化、補完性原則に基づく国内議会の監視手続やEU基本権憲章への法的拘束力付与に見られるように分権化の方向性が示されていることである。 第3に、EUレベルの立法においては、各国法の「調和」という中央集権的な手法による「垂直的」は主権の委譲よりむしろ、ホーム・ステート・コントロールを基本とする相互承認原則が支配的になることにより「水平的」な主権委譲が行われている。EUの相互承認原則はトルコとの関税同盟にも導入され、相互承認原則の対外的適用という現象も見られている。それは、限定的な分野ながらEUとトルコとの間で一定の「水平的」主権委譲が行われていることを意味している。 以上から、立憲的多元主義理論の精緻化を図ることが今後の課題となる。
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