本研究のテーマである「フランスにおける自己決定権の研究」の一環として、初年度は、「治療行為における患者の同意原理に関する判例理論の形成(1)」と「患者の自己決定としての輸血拒否権」を取り扱った。 前者については、患者の同意が、ある行為に対して与えられた場合、医師はそれを超えて重大な行為をすることができるか-この問題は、フランスにおいて、患者が同意を与えていた侵襲中に、医師が予期していなかった事態に直面して手術を変更・拡大する場合、その手術は同意なき手術にならないかというもっとも先鋭な形で、議論されるのである。同意の対象範囲・個別性の問題について、判例には二つの流れがある。第一の流れは、原則として患者の新たな同意を得るまでは侵襲を中断しなければならないとして同意原理を墨守する少数判例の立場であり、第二の流れは、外科医が医学的に最善であると信じて決定した場合、新しい事態に応じた侵襲の継続を認める多数判例の立場である。 後者については、上記(2)ないし(3)とも関わり、輸血拒否と患者の権利法との関係で治療拒否権の一断面を検討した。立法によって過去との断絶がなされても、判例は過去との継続性を選択することがしばしばある。患者の権利法が、はっきりと患者の権利として、患者のインフォームド・コンセント(同意だけではなく、拒否の場合も含めて)を尊重し、その意に反する治療はできない、としているとき、患者はどの程度までの治療拒否ができるのか。治療拒否によって生命に危険があるような場合まで、患者の治療拒否権として認められるのか。これを輸血拒否の判例を素材として考察した。
|