本研究の目的は、ソーシャル・キャピタル論を政治思想としてとられた場合に、それが過去および現在の主たる理論とどのような関係に立つかを解明することである。このために、中間団体や小集団をあつかう政治理論をひろく視野におさめ、それらの脈絡を解きほぐしてゆくことが必要になる。17年度は、第一に、本研究で用いる資料・文献についての目録を作成するとともに、これらを収集することにつとめた。第二に、北米における現在の政治理論について検討したが、とくに、先住民、移民、言語的少数派などの処遇をめぐる多文化主義の議論との交錯について検討をおこなった。多文化主義の議論においては、一方で、文化を共有する人々の間の対面的人間関係が重視され、ソーシャル・キャピタル論との重なりが大きい。他方において、多文化主義の思想の強まる1970年代以降の時期は、ソーシャル・キャピタルが衰退してきた時期でもあり、実際、両者の間に衝突を見る考えも存在する。しかも、多文化主義の議論は、政治思想の多様な潮流との関わりで、盛んな研究の対象となっており、ソーシャル・キャピタル論と多文化主義論との関係の分析は、ソーシャル・キャピタル論の政治思想史上の位置の解明に大きく寄与することを認識するに至った。
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