研究概要 |
本年度は,1990年代から2000年代にかけて,(1)イデオロギー対立はなくなったのか,(2)イデオロギーの争点に対する拘束力はなお低下を続けているのか,(3)イデオロギーの投票行動に対する規定力はなお保たれているのか,を長期的な観点から再検討した.また(4)2005年衆院選の投票行動の規定因が何であるのか,政党支持,保革イデオロギー,党首評価,争点(郵政民営化),組織加入の観点から分析した. 自民党一党優位体制崩壊後も,イデオロギーがわからない有権者は増えていない.有権者は,各政党をイデオロギー尺度上に順序づけて捉えている,1980年代から2000年代にかけて各党のイデオロギー距離はかなり縮まっていると認識されているが,各党支持者のイデオロギーの平均値には違いがあり,有権者の間にイデオロギー対立がまったくなくなったわけではない. 有権者の態度空間には,弱いながらも保革イデオロギーが基底にある.とくに安全保障に関する争点を中心に保革イデオロギーが争点態度に対する拘束力を持っている.有権者の態度構造は,安全保障,日本型システムへの賛否,小さな政府の三つの次元に分かれているが,2000年代になって多元化がさらに進んだとまではいえない. 保革イデオロギーと支持政党や投票政党との相関は,1980年代から徐々に低下しているが,まだ高い.しかし自民党と野党第1党との投票行動について分析した結果,1993年衆院選を境に,保革イデオロギーの説明力は低下しており,イデオロギーの投票行動に対する規定力が低くなっている.保革イデオロギーは,自民党と野党第1党とを弁別するよりも,自民党と社民・共産両党とを弁別する度合いが強い. また2005年衆院選では,党首効果が,政党支持や保革イデオロギーを超えて大きな影響力を持ち,それによって争点投票を導いた選挙であったことを明らかにした.
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