本研究は、1990年代から2000年代にかけての新しい全国的サーヴェイ調査を用い、日本の有権者の保革イデオロギーの態様を、国際比較を交えながら、実証分析することが目的であった。主な分析結果は以下の通りで、新しい知見ばかりである。 1.日本では、自民党一党優位体制崩壊後も、保革イデオロギーがわからない有権者は増えておらず、有権者は、各政党をイデオロギー尺度上に順序づけて捉えている。各党のイデオロギー距離は、1980年代から2000年代にかけてかなり縮まっていると認識されているが、各党の支持者や代議士のイデオロギー対立はまだ存在している。 2.政治的争点に対する態度の一貫性は、有権者よりも代議士のほうが高く、代議士の争点態度は保革イデオロギーによって強く統合されている。しかし有権者の態度空間にも、弱いながらイデオロギーが基底にある。 3.保革イデオロギーと支持政党や投票政党との相関は、1980年代から徐々に低下しているが、まだ高い。だがイデオロギーの投票行動への説明力は、自民党と野党第1党より、自民党と社民・共産両党のほうが高い。 4.2005年衆院選は、党首効果が、政党支持や保革イデオロギーを超えて大きな影響力を持ち、それによって争点投票を導いた選挙であった。 5.英などを除く欧州の多くや日・豪・加・比などの有権者は、イデオロギー軸上に自己を位置づけられる。各国のイデオロギーは、全体平均を基準にすると、欧州の多くや加・新西蘭は左側、アジア諸国、米・露・比・墨などは右側に位置する。蘭・瑞・仏・伊・新西蘭などが多峰分布、北欧の多くや米・西・韓が二峰分布、日・英・加・豪・葡・露・白・台・比が単峰分布である。 6.国際的に見ると、日本は、有権者がイデオロギーを理解しているが、中央に偏在した分布でイデオロギー対立が弱い。
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