本研究はイギリスにおける1990年代以降の統治(ガバナンス、governance)の変容を、政策ネットワークとしての政府・利益団体関係の変化を軸に明らかにするものである。この時期の統治の変容は、直接参加の拡大により特徴づけられ、イギリスのみならず代議制民主主義を前提とする先進民主主義国の国家・社会関係一般に通ずる変化を予期させる。 初年度の本年はまず、イギリス全土における分権の進行を背景に、最も顕著にガバナンスの変容が生じているサブナショナルなレベルを対象に、産業利害の媒介様式の変容を検討した。その過程で、11月にはイギリスにおいて、そして2月から3月にかけ日本国内での出張調査(関係機関におけるインタビューならびに刊行物の閲覧)を実施した。 本年の研究に基づき、官民を含む政策関係者による協議ネットワークの制度化が「地域」という新たな行政レベルで急速に進行していること、そしてこの新しいレベルにおける具体的な民主主義の制度としては、代議制について否定的な見方が広く存在することが明らかにされた(近刊論文)。 この状況は、直接参加の拡充が新たな代議制の出現を敬遠させているものと理解される。代議制の強化と参加の拡充という二つのアジェンダは互いに独立した変数であり、排他的なものではない。しかし現実には、両者はトレードオフの関係にあると受け取られており、参加の拡大が代議制への懸念を生んでいる状況がある。すなわち、政治エリートへの不信(参加の拡大を尊重しないという批判)という形をとり、民主的正当性をめぐる代議制と参加の衝突が生じている。 イギリスにおける統治の変容は、分権の展開における局面として、代議制を前提とする統治形態は必然的なものではないことを予想させるものである。
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