本研究はイギリスにおける1990年代以降の統治(ガバナンス、governance)の変容を、政策ネットワークとしての政府・利益団体関係の変化を軸に明らかにするものである。この時期の統治の変容は、直接参加の拡大により特徴づけられ、イギリスのみならず代議制民主主義を前提とする先進民主主義国の国家・社会関係一般に通ずる変化を予期させる。 第三年度の本年は、サブナショナル(地域)、ローカル(地方)のレベルを対象に、異なるレベルにおける政府・利益団体関係の調整を中心に検討した。その過程で、9月、11月にイギリスでの調査を実施した。 本年の研究に基づき、一方でサブナショナルなレベルに重点を置く統治制度の改革が、経済団体など産業利害の優越を伴いつつも、このレベルに多様な利害の包摂をある程度もたらしていることが再確認されたものの、他方で、同時期の別の顕著な特徴であるローカルレベルにおける自生的なアクター間ネットワークの進展との関係では、そのローカルな連携関係の利用は、1960年代後期のウィルソン政権以来続く、改革の制度設計における政府の主導という手法の継続を主因として、制度改革の主眼である経済社会再生分野への貢献においてでさえ、十分に考慮されていないことが明らかになりつつある。むしろ制度設計とローカルなアクター間関係との矛盾が具体的に顕在化している事例も、多くはないが、見られる。これは、対照事例として今年度、関係団体への聞き取りを含め実施した日本の地方制度改革についても、その推進手法のなかで随所に見出される側面である。 新たな利害の参加という関心は共通しつつも、その形態について制度設計と実際の政治過程との間に矛盾が生じていることを、これらの状況は示していると考えられる。
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