本研究はイギリスにおける1990年代以降の統治(ガバナンス、governance)の変容を、政府・利益団体関係の変化を軸に明らかにするものである。この時期の統治の変容は、直接参加の拡大により特徴づけられ、イギリスのみならず代議制民主主義を前提とする先進民主主義国の国家・社会関係一般に通ずる変化を予期させる。 最終年度の本年は、政府が提示するガバナンスの制度設計と実際のアクター間関係の間の矛盾という、過年度の研究から類推された論点について、サブナショナル(地域)、ローカル(地方)両レベルの調整の観点から検討した。その過程で、5月に渡英し、現地調査を実施した。 本年度の研究からは、第一に、地域行政への分権により、制度改革に肯定的な見方をもつ高技能中間層が地域の中核都市に拡大する一方、自治体職員や地場の中小企業経営者を中心とする旧来の地方エリートには、行政の複雑化といった見方から、改革全般への冷ややかな姿勢が見られることが分かった。第二に、制度改革が念頭に置く地域発展モデルへの失望も確認できた。改革が提示している、中核都市の経済活性化に地域の資源を集約するモデルには、都市の若手高学歴層の支持がある一方、社会的排除や公共サービス劣化への対処といった、他の多くの有権者が行政に寄せる期待との乖離もある。周辺への波及効果の不足を背景に、このモデルは自治体・街区レベルの実情を無視した資源の集約との批判を受けている。 これらは、地域レベルの強化を企図する制度改革と、地方レベルでのアクター間関係の実態との矛盾であり、より一般的には制度と政策過程・政策内容の乖離と解釈できる。対照事例として主に文献調査により検討した日本の地方制度改革については、この乖離があまり明瞭ではないものの(このような視点を研究アジェンダとする研究が多くないことも一因と考えられる)、部分的には同様の構図で解釈しうる問題の萌芽も見られる。
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