本研究は、石原都政に関して、21世紀初頭における先進諸国の都市政治における2つの典型あるいは象徴的な統治形態の1つであるとの仮説的前提に立って、都市経済政策、都市社会政策、住民統合メカニズム、都市統治機構という4つの観点を設定し、また大ロンドン圏政(GREATER LONDON AUTHORITY : GLA)との比較という規準を導入して、実証的かつ理論的な位置づけを行うことを目的としている。平成18年度については、とくに以下の点で研究成果を公表することができた。 1.比較対象であるGLAについて、都市経済政策と都市社会政策との交わる領域である都市教育政策に関する実証論文を公表した(『日本教育政策学会年報』13号に掲載)。GLAの都市教育政策には、(1)新自由主義志向の政策介入のタイプ(もっとも有力な政策)、(2)社会民主主義的福祉国家志向の政策介入のタイプ(従たる政策)、(3)平等主義的コミュニタリアニズム志向の教育運動の3つがあることを実証できた。 2.石原都政において都市経済政策と都市社会政策が交差する領域である都市教育政策に関して、実証論文を2つ公表した(『地方自治職員研修』および『現代思想』掲載)。ここでは、石原都政の教育政策には、(1)全都一斉学力テストに代表される新自由主義志向の政策(もっとも有力な政策)と(2)公立学校への「ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)」型経営手法の導入、(3)道徳教育や「日の丸・君が代」問題に代表される現代的ナショナリズムの3つがあることを実証した。 3.都市政治についての理論的な成果としては、(1)都市統治機構に関して、日・米・英3カ国の「ガバナンス理論」を批判的にレビューした論文を公表した(『東京研究』に掲載)。また(2)都市住民統合に関して、新自由主義的統合とナショナリズム的統合とを架橋する概念として、私なりに「新自由主義国家(neo liberal State)」概念を創出した(『現代思想』論文)。 4.以上の成果を、学界以外にもわかりやすく示すものとして、雑誌『世界』06年10月号の座談会「石原都政は何を目指してきたか」を著した。
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