本年度は最終年度としてフィリピン政治構造を把握する上での全体的枠組みの検討に重点を置きながら研究を進めた。 具体的な社会政策を巡りフィリピン国家がどのように対応してきており、そこにいかなる構造的特徴があるのかを考察することを焦点とした。グローバリゼーションが展開するなかでフィリピンの歴史的社会問題たる封建的農地所有転換、国際競争力増進のための自由化と労働市場再編、さらには国際社会が近年関心を高めている貧困対策といった、それぞれ関連する分野を巡り、フィリピン社会がいかに対応してきたのか。こうした問題を国家、市場、市民社会の3アクターの関係性で説明することを検討した。 国家が国際機関からの圧力を背景に行う社会政策は、国内のパトロンクライアント政治という伝統的な制約要件によって、その実施過程で効果が減殺されてゆく。一方、労働市場の自由化により、非正規雇用の増加など労働条件は労働者にとって不利な形で展開するにもかかわらず、旧来のような活発な労働運動も減退し、国家が労働界を包摂する過程にある。さらにNGOなど市民社会は特に1990年代以降活発な運動を展開し社会問題の改善に一定の成果を上げているが、皮肉なことに社会運動の非政治化、つまり政治離れを生み、抜本的な政治構造の転換には必ずしも結びついていない。 以上のようにグローバりぜーションが進む中で、自由化とともに大きく変容する部分(労働市場)と歴史的伝統的要因に制約される部分(政策実施過程)が混合しているのが現在のフィリピン政治の特徴といえるだろう。
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